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長期にメインテナンスを行うと歯は守れるか

OPひるま歯科 矯正歯科 院長 晝間 康明

Fromデータ2020 Vol.1「メインテナンスを行わない場合に起きること」では、1981年のアクセルソン先生の研究結果から、メインテナンスを行わずに治療や検診の繰り返しだけでは、むし歯と歯周病のリスクが増加すると解説しました。今回は、この研究を30年継続し、長期間メインテナンスを行った場合には歯が守れるのかを解説します。

The long term effect of a plaque control program on tooth mortality、 caries and periodontal disease in adults
Results of after 30years of maintenance
成人における歯の喪失、う蝕、歯周病に対する
プラークコントロールプログラムの長期的な効果
〜30年のメインテナンスの結果〜

P. AXELSSON AND J. LINDHE(Journal of Clinical Periodontology 2004: 31: 749-757)

研究方法

観察研究(※1)・前向きコホート研究(※2)
※1:対照群を設定せずに観察だけ行う研究。科学的根拠のレベルは低下するが、対照群を設定した場合に被検者に不利益が生じるため対照群を設定できない場合に行う研究方法のひとつ。
※2:被検者をある時点より未来に向かって追跡するためデータの偏りが生じにくく科学的根拠のレベルが高い。しかし、脱落者が多く発生し被験者数が減少すると研究結果の信頼性が低下するため、大規模に行なう必要があり研究コストがかかる。

研究対象

Axelsson 1981の研究におけるメインテナンス群
375人から継続した257人

期間

1972〜2002年

検査方法

1981年の研究と同様に以下のグループに分けた。
グループ1(G1) 20才以上35歳未満
グループ2(G2) 35才以上50歳未満
グループ3(G3) 50才以上

検査時期と内容

3年、6年、15年、30年に歯の磨き残し、BOP(プロービング時の出血から歯肉炎の有無)、PPD(歯周ポケットの深さ)、CAL(歯を支える骨の高さ)、歯の喪失歯数、新たなむし歯の発生を調査した。最初の2年間は2ヵ月に1度、3年目から30年目までは3〜12ヵ月に1度、個人の必要度に合わせて口腔衛生指導とPMTC(メインテナンス)を行った。

結果

むし歯になった歯の本数ではなく、歯面数を計測した。歯面は歯1本に付き前歯で4歯面、臼歯で5歯面となる。

メインテナンス中に抜歯になった原因は、歯の破折が最も多く、ついでむし歯(う蝕と歯内病変(※3)の合計)、歯周病の順だった。
※3:むし歯が進行し歯髄(歯の神経)にまで達し感染した状態のこと。

本研究の信頼性

本研究は30年間の長期にわたる前向きコホート研究であるにもかかわらず、最終的に約73%の被験者が参加していたこと、脱落者はG3の高齢者が加齢や死亡のために参加できなくなったことが大きな原因であることから、研究結果に影響を与える脱落者は少なく信頼性は高いと考えられます。メインテナンスに関する研究の多くは、後ろ向き研究や横断研究であるため、世界的にも貴重な研究と言えます。

メインテナンスの定着で歯の喪失本数に違い

本研究では、最も若いグループ(G1)から高齢のグループ(G3)までメインテナンス中に0.4〜1.8本しか歯の喪失は起きませんでした。現在の日本ではメインテナンスが定着しておらず80歳での喪失歯数は13本なので(H28歯科疾患実態調査)、メインテナンスにより多くの歯の喪失を防ぐことが可能であることがわかります。

メインテナンスの継続で歯周病による歯の喪失を防げる

日本では抜歯の理由で最も多いものは歯周病であったのに対し、本研究では歯周病による抜歯は5%だけでした。長期にわたりメインテナンスを継続することで歯周病による歯の喪失を防げることがわかります。日本では、歯や歯肉に異変を感じてから歯科医院で歯石除去などをするものの応急処置のような対応が繰り返され歯周病の進行を防げないために、抜歯の最大の原因となっています。

本研究の歯の喪失最大の原因は、歯の破折(62%)でした。つまりメインテナンスをすることでむし歯と歯周病は予防でき歯の喪失は0.4〜1.8本に減少させられるものの、歯の破折による歯の喪失は防ぎきれないと考えられます。 歯の破折とは歯が折れることですが、健康な歯がいきなり折れるような外傷は少なく、治療を繰り返した歯が脆くなって噛む力に耐えられなくなること、また歯ぎしりや食いしばりなどの異常な強い力が局所的に加わる状態が長年繰り返されることで亀裂が少しずつ増えて破折が起きます。

メインテナンスでは、細菌の感染症であるむし歯と歯周病は予防できても、過去の治療や力のコントロールができないため歯の喪失の最大の原因が歯の破折になったと考えます。

このデータから当院の捉え方

本研究の結果から、当院ではむし歯と歯周病のリスクを減らし、メインテナンスを生涯にわたり行うことが最も重要であると考えています。その結果、アクセルソン先生に近い結果を出せるようになってきていますが、同じように幼少期のむし歯治療と噛む力による歯の破折で歯を失う症例と遭遇します。これからの私たちの課題は、幼少期のむし歯を防ぐために幼少期からのメインテナンスの開始、噛む力のコントロールは矯正歯科治療による安定したかみ合わせによる力の分散とスプリント(マウスピース)による歯の保護が必要と考えています。そして、治療のためではなくメインテナンスのために歯科医院に通うことで歯の喪失を防げるということをより多くの方に理解してもらうこと、メインテナンスに通うモチベーションを保つためのサポートが必要であると考えています。

▲左グラフでも、う蝕と歯内病変による抜歯は一定の比率で発生している。これはメインテナンス期間中の新たなむし歯発生歯面数は1.2〜2.1歯面であったにもかかわらず本研究の対象者が成人であったことから、研究開始時に存在した幼少期のむし歯や治療した歯による影響が大きいと考えられる。したがって成人になるまでの幼少期のむし歯をどれだけ防げるかが歯の喪失に大きな影響を与えると考えられる。