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症例紹介16/Fさん「下突咬合、上突歯列、叢生歯列、下突顎、右側偏位顎」

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Fさん「下突咬合、上突歯列、叢生歯列 下突顎、右側偏位顎」

初診時の診断:「下突咬合、上突歯列、叢生歯列、下突顎、右側偏位顎」

今回は、骨格性下顎前突症により外科矯正治療をおこなったFさんの症例解説をおこないます。Fさんは治療結果に対して噛み合わせや顔貌の改善だけでなく発声も良くなったと治療結果に満足していただけました。

■初診時

現症および主訴

下顎の突出感、反対咬合、叢生の改善を希望されて当院を受診されました。初診時23歳。

※以下より画像をクリックすると大きい画像が見れます。

顔貌所見

顔貌

骨格的に上下顎骨の前後的なズレが大きく、下顎は前下方に位置し下顎先端(オトガイ部)の突出感、下唇の突出感が顕著でした。また口唇を閉鎖する際に力を入れなければ口唇を閉じられないために口唇閉鎖時の緊張感も顕著です。

口腔内所見

上下顎歯列の前後的な位置関係に大きなズレがあり上顎歯列に対して下顎歯列が前方に位置する大臼歯関係Angle class III、上下顎前歯部に軽度の叢生、前歯部の反対咬合を認めました。

口腔衛生状態は不良で、歯の磨き残しを示すPCRは50%、歯周病の進行状況を示す歯肉からの出血BOPは39%、唾液検査によるう蝕のトータルリスクは14、歯周病のトータルリスクは8とう蝕・歯周病のリスクが高い状態でした。歯面にはプラークが付着し歯と歯肉の境には炎症による発赤を認めます。

 治療前 上顎

 治療前 右側 治療前 正面 治療前 左側

 治療前 下顎

特記事項

全身的な疾患や顎関節症などはありませんでした。上下顎左右側には第3大臼歯(親知らず)が存在し萌出していました。

第3大臼歯(親知らず)が存在し萌出

■ 治療方針

骨格性下顎前突症と診断し、下顎骨の突出感改善も希望されていることから外科矯正の適応と診断しました。また、上下顎骨の骨格的なズレは大きいものの(ANB:-6°)上顎前歯が唇側傾斜し下顎前歯が舌側傾斜し骨格的なズレを代償する変化により反対咬合の程度は小さいものでした。このような症例では、骨格的なズレと上下歯列のズレの大きさが一致していないために外科手術による下顎の後退が十分な量をとれなくなります。そこで上顎は小臼歯と第3大臼歯、下顎は第3大臼歯のみを抜歯して下顎骨の後退量を大きくとる方針としました。また、唾液検査によりう蝕と歯周病のリスクが高く矯正治療開始前の初期治療として徹底したPMTC、歯石除去、ブラッシング指導、フッ素の使用をおこないPCR30%以下、BOP5%以下の状態になってから矯正治療を開始することとしました。

■ 初期治療による変化(前歯部口腔内写真)

初期治療開始時

初期治療開始時 正面初期治療開始時 下顎

再評価時(初期治療後)

再評価時(初期治療後) 正面再評価時(初期治療後) 下顎

初期治療後にPCRは50.1%→19.4%、BOPは39%→4.2%に減少し、歯肉の発赤は改善され歯石も除去されました。この結果、う蝕と歯周病のリスクが減少したと判断し、治療方針に基づき抜歯をおこない矯正治療を開始しました。

■ 動的治療開始時口腔内写真

動的治療開始

動的治療開始時 上顎

動的治療開始時 右側動的治療開始時 正面動的治療開始時 左側

動的治療開始時 下顎

■ 術前矯正治療終了時(動的治療開始から25ヵ月後)

上顎のみ小臼歯を抜歯したことで、上顎前歯は後退し下顎前歯は唇側に傾斜し治療開始前の代償性の変化は改善され反対咬合の程度は治療開始前より強くなりました。叢生は改善され抜歯スペースも閉鎖されたので、この後に外科手術をおこないました。

術前矯正治療終了時(動的治療開始から25ヵ月後) 右側術前矯正治療終了時(動的治療開始から25ヵ月後) 正面術前矯正治療終了時(動的治療開始から25ヵ月後) 正面

■ 治療結果

動的治療期間

動的治療期間は約31ヵ月でした。診断時に設定した治療期間とほぼ同じ期間で動的治療を終了することができました

顔貌所見

顔貌

上顎は抜歯により上顎前歯が後退したことで上唇の突出感が改善、下顎骨は外科手術により下顎骨が後退したことで下唇やオトガイ部が後退しました。側貌全体ではElineの内側に上下口唇が入るバランスの良い側貌を得ることができました。

口腔内所見

上顎のみ小臼歯を抜歯しているので、上顎の歯数は下顎の歯数に対して2本少なく臼歯関係はAngle class IIを呈しています。しかし、上顎の歯のサイズは下顎のそれよりも大きいため最後方臼歯の咬合関係は半咬頭での接触となります。叢生や反対咬合は改善されて、上下の歯が最大接触面積で咀嚼することが可能となりました。右上2番近心に初期う蝕を認めますがこのう蝕は右上1番と2番が重なっていて見えなかったう蝕が矯正治療の歯の移動により重なりを改善した後に見えるようになったもので矯正治療中に新たに発生したものではありません。動的治療後の初期治療(PMTC、スケーリング)をおこなってから修復をおこないます。

治療後 上顎

治療後 右側治療後 正面治療後 左側

治療後 下顎

X線写真所見

パノラマX線写真所見では、明らかな歯根吸収などを認めませんでした。下顎骨を後退させ固定する際に使用したチタンプレートが写っています。

X線写真

セファロX線写真の重ね合わせにより上下顎前歯が後退し、外科手術による下顎骨の後退、下顔面高径の減少、口唇の突出感および緊張感が改善し、側貌における硬組織と軟組織のバランスが改善したことを確認できました。

唾液検査比較

動的治療開始時、初期治療後の再評価時、動的治療終了時の比較をおこないました。治療開始前は、う蝕・歯周病ともにリスクが高かったものの初期治療によりリスクは減少し、動的治療期間中も毎回メインテナンスをおこない、フッ素洗口をおこなったことでう蝕のトータルリスクは14→12、歯周病のトータルリスクは8→2に減少しました。

動的治療開始時の唾液検査比較
初期治療後の再評価時の唾液検査比較
動的治療終了時の唾液検査比較

■ 考察

本症例は、上下歯列の前後的なズレより上下顎骨の前後的なズレが大きいため上顎のみ小臼歯を抜歯して下顎骨の後退量を大きくとり骨格的なズレを改善しました。この結果、下顎の突出感や口唇突出感は改善され美しい調和のとれた顔貌、きちんと噛める機能的な咬合を得ることができました。また発声も改善され、口腔衛生状態も改善しむし歯と歯周病のリスクも低下してより質の高い健康的な生活に貢献できたと思われます。今後は、この歯並び噛み合わせを維持するためのメインテナンスを継続して生涯にわたってFさんの歯を守っていきたいと考えています。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
治療に用る主な装置
マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
費用(自費診療)
約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。