| ご質問いただきありがとうございます.晝間康明@ひるま矯正歯科です. 専門的な用語もきちんと調べられており状況が大変わかり易い質問に感謝します. 早速ですが回答させて頂きます.
まず、現在の医療の基本的な考え方として最小侵襲治療,evidence-based medicine(EBM)があります. 最小侵襲治療とは,治療を行って患者さんを健康にする際にその治療による介入を最小限に抑えようと言うものです.これは,医師が善かれと思って行った治療が長期的に見て患者さんに利益とならない場合や逆に不利益になる場合がある事がわかってきたからです.そして,その治療が本当に患者さんにとって利益があるものかどうかを判断する方法としてEBMが生まれました.EBMでは,治療法に対する効果を研究し医師の主観だけで治療法を選択するのではなく科学的な根拠に基づいて治療法を選択するものです.
現在行われている治療の流れは矯正歯科的には侵襲の大きな治療でありEBMが不足していると思われます. 以下質問にそってお答えします.
>@乳犬歯を抜歯したことでの弊害はありますか。 >(上顎の成長障害、上顎の拡大処置ができなくなるなど) 乳犬歯を抜歯する事で、側切歯は萌出し易くなりますが乳犬歯が存在する事で維持されていた歯槽骨の犬歯間幅径(犬歯部付近の幅)が小さくなる可能性があります.そもそも、側切歯が口蓋側に萌出してくる根本的な原因は、歯槽骨の容量に対して大きすぎる永久歯が萌出してくる事で口蓋側に転位して萌出するなどの叢生(乱杭歯)となります.従いまして、当院では側切歯の萌出誘導のために乳犬歯を抜歯する事はほとんどありません.乳犬歯の早期抜歯を推奨するEBMもありません.しかし、側切歯の萌出により既に乳犬歯の歯根吸収などが確認された場合などは抜歯する事もあります.
>A乳犬歯を抜歯した場合と抜歯しない場合の犬歯の生え方に >違いはありますか。(抜歯した場合の方が八重歯の程度が強いなど) このような比較を行う研究などは見た事が無いので何とも言えませんが,側切歯がきちんと萌出した分だけ八重歯の程度が強くなる可能性はあると予想します.
>B今の段階で、連続抜去法を選択しないこともできるのでしょうか。 当院では1978年の父の代から矯正治療を行っておりますが、連続抜去を行った症例はありません.これは、父が大学の矯正歯科医局時代に連続抜去の症例を経験して、歯槽骨の幅が狭くなったりその後の治療をより難しいものにしてしまった症例を経験したからだそうです.私が在籍していた新潟大学矯正歯科でも連続抜去の症例はありませんでした.現在、ほとんどの矯正歯科は連続抜去は行わないはずです.したがって、担当医が連続抜去の経験が豊富という点で少しびっくりしました.口腔内を診察していない状態で断定的に述べる事はできませんが,連続抜去を行う事は全くお勧めしません.また、既に乳犬歯を抜歯しているからといって連続抜去をしなければならないという事は無いと思います.
また、質問項目にはありませんがこれから2年間もタングガードをつけてしゃべりにくくて辛い思いをして、結局小臼歯を抜歯して矯正治療をするとさらに2年以上の動的治療期間が必要となります.すると、今から4年間何らかの矯正装置をずっと装着する事になってしまいます.しかも,男子の成長は11~15才くらいで成長量がピークを迎えますので、4年間治療して終わったと思ったら顎骨の成長によりかみ合わせが変化して再度矯正治療を行わなくてはならなくなる可能性もあります.矯正装置を装着しなければ歯並びをきれいにする事は出来ませんが、装置を装着している間はむし歯や歯肉炎のリスクが高まりご子息の口腔内にとっては侵襲となります.したがって、必要最小限の期間で矯正治療を行う事が最善と考えますので,当院であれば現在は経過観察をしてむし歯と歯肉炎の予防を徹底し成長の落ち着く頃に矯正治療を行うのではないかと思います.
私の回答で混乱させてしまうかもしれませんが,ぜひこの機会に矯正歯科専門医を受診され意見を聞き,治療方針のメリットでメリットを理解されてから治療を継続されるかどうか判断される事を強くお勧めします.
取り急ぎ回答とさせて頂きますが御不明な点があれば再度ご質問下さい
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