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No3570 の投稿


■3570 / )  Re[1]: 抜歯で梅干し婆さんになる?
□投稿者/ 晝間@ひるま矯正歯科 -(2008/12/10(Wed) 18:13:28)
http://www.hiruma.or.jp
     <抜歯をしなくても大丈夫なのではないか>という言葉が、その先生の治療目標(理念)のすべてを言い表しているように思います。担当医は、つまりは<何が何でも抜かないことはいいことだ>という、理論より観念的に非抜歯推進派の矯正医なのだろうと思います。矯正治療上、抜歯がどうしても必要な場合があることはご理解されているとおりですが、このご質問はもっとも多い質問の一つでもありながら久し振りでもあるので、過去ログなどから改めて文章を起こして回答とします。
     まず、矯正歯科治療の先進国アメリカでは、抜歯・非抜歯の問題についてはすでに一世紀も前から論争が行われており、忘れたころに非抜歯論が持ち上がっては消え、消えては持ち上がる歴史を繰り返しています。抜歯をできるだけ避けたいと考えるのは矯正医も同じですが、日本人の不正咬合においては、非抜歯で治療できるケ−スはかなり限られているのが現実です。(昨年出版された矯正専門書にある大学病院矯正科や矯正歯科専門医院の報告では、大体どこも70%前後が抜歯ケ−スだったと記されています。)
     矯正治療において抜歯が必要な理由は、歯の大きさとそれを収容する顎の大きさとの不調和(ディスクレパンシ−)を解消するためです。簡単にいえば、歯が大き過ぎるとか、顎が小さ過ぎるために歯ならびが不規則になったり、あるいは口元が突出した状態を解消するためです。抜歯による空隙は治療後に閉じてしまうものですから、<抜歯イコール入れ歯>の抜歯とはまったく意味が違い、矯正治療によって歯の総数は減りますが、それによってより好ましい咬み合わせや顔貌を得るわけですから、<歯が足りなくなる>と考えることはありません。むしろ、(顎に対して)歯が余っているから不正な状態になったと考えるのが妥当です。
     理屈からいえば、 1本1本の歯を小さくするとか、 顎を広げて大きくするということが考えられますが、現実的にはできない(あるいは限界がある)ので、「歯の数を減らして(つまり抜歯して)、 顎の大きさに合った歯の数にする」方法がとられるわけす。<抜かないことはいいことだ>という信仰に近いような考えを説得するのはどの矯正医も苦労するところですが、誰でも「歯を抜いて治しますか、抜かない(非抜歯)で治しますか」と尋ねられれば、「抜かないで治して」と言うのが人情です。
     抜歯か非抜歯かは、矯正治療方針を決定するうえで極めて重要な要素ですが、それは<目的>ではなくより良い咬合を手に入れるための<手段>に過ぎません。確かに技術の進歩により従来は抜歯ケースであったものが、非抜歯で良好な治療結果を得られるようになったものもありますが、その割合はホンのわずかでしかありません。そして恐らく、患者さんが考えるのとは逆に、矯正治療は抜歯して治す方が一般に易しいのです。もともと非抜歯ケースを非抜歯で治すのは一番簡単ですが、抜歯ケースを非抜歯で治そうとすると難しくなります。それは、非抜歯では抜歯によるスペースがない分、歯の移動範囲や量が制限されるからですが、非抜歯のトラブルはほとんどがこの点を軽く見た矯正医の判断ミスです。
     顔貌(口元)の審美性については、欧米人(コーカソイド)の鼻は高くオトガイ(顎の先)は突き出ていますから、矯正治療によって口元を引っ込めなければいけないケースは少なく、非抜歯で口元が少し出ても顔貌にあまり影響はありません。しかし、日本人(モンゴロイド)の頭蓋顔面の骨格や歯の大きさ形態は、欧米人のそれとまったく異なるにもかかわらず、欧米人の治療基準をそのまま当てはめて治療しようとすることに問題があります。
     出っ歯の人が口唇を閉じようとすると、多くは前歯が邪魔をしますので、意識的に口唇を引っ張らなくては口を結ぶことができません。この時に軟組織が歪み、ことに下唇からオトガイにかけてのS字状のラインが崩れ、オトガイ(顎の尖端)が不明瞭なノッペリした側貌になります。成人患者の矯正をしたい理由の中に口元の審美性の改善があるとしたら、非抜歯を前提に方針を立てるのは間違いのもとです。お子様の不正咬合の状態は分かりませんが、どのような治療方針なのでしょうか。
     <梅干しお婆さんみたいな口元になるかもしれない>とは軽率な言い様ですが、日本の矯正歯科臨床の長い歴史の中で、それが事実だとすれば学会でも問題になっているでしょうし、さらには社会的な問題になっていてもおかしくない話です。抜歯症例の多い当院ではクレームやトラブルになっていそうなものですが、幸いなことかこれまでにそのようなクレームを頂いたことはありません。蛇足ながら、今年の8月から3週にわたって読売ウイークリー(週刊誌、残念ながら先月で廃刊)が矯正歯科の特集を載せました。専門的に見てもよく調べて書かれた記事でしたが、その中の「非抜歯はいい方法か」という項目では、専門医の中立的なコメントを載せながら「非抜歯という方法にこだわると、本来の治療の目標を逸する心配もある。(略)患者は、治療の目標を定めたうえで、診療所で十分な説明を聞いた方がいいだろう」と結んでいます。
     
     投稿者さんには、どうか後悔しない治療(矯正医)の選択をして欲しいものですが、まずは今がどういう状態かを知るためにも、(場合によればお子様も含めて)別の矯正歯科専門医によるセカンドオピニオンを受けることをお勧めします。
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