| ご質問は、非抜歯から抜歯治療に換えると<今までの歯を広げるという治療は無駄>かどうかということですが、その処置がこれからの抜歯治療にも有益かどうかという観点でいえば、益のない処置であったことに違いはありません。 ただ、無駄であったかどうかの前に、以下のことを考えます。 1)ういろうさんの不正咬合が、抜歯か非抜歯かのボーダーラインケースであった可能性。 2)患者側(ういろうさん)が、はじめから非抜歯を前提にした治療を求めなかったか。 3)矯正医が非抜歯治療を“売り”にしていないか。 現在の矯正歯科界は渾沌とした状況にあって、それは、矯正の持つ価値観の多様性に矯正医側が阿(おもね)る側面と、それに拍車をかける一部患者側の皮相な要求が相まって引き起こされたものといえます。その具体的な一つが非抜歯治療です。 (恐らく)患者さん側が思っているだろうこととは違って、矯正歯科治療における抜歯、非抜歯の決定基準というものは無いに等しく、個々の矯正医の持つテクニックと価値観の中で極めて個人的に決定される事柄であり、その矯正医個人にも、患者さんの事情やその時代背景によって微妙にその基準が変わる“ゆらぎ”が、そこにはあるものです。 今、矯正歯科の流れは、その善し悪しは別として非抜歯治療の方向に向かっており、インターネット上では「当○○矯正歯科は歯を抜かない矯正治療をコンセプトとし」などのキャッチフレーズを、少なからず観ることができます。この様な時代背景と、非抜歯治療の功と罪がまだキチンと整理されていない(ある意味で実験段階にある)今の矯正歯科界にあって、ういろうさんの担当医が非抜歯で治療を始めた気持ちも分かりますし、一概に非難できる立場でもありません。 いずれ行き過ぎた非抜歯治療のツケが表面化する時期が来るものと思うものですが、ういろうさんが今の非抜歯治療の結果に不安を感じ、担当医も<希望に沿わなければいつでも抜歯の方向に変更できる>といっていることからすれば、本来の資料分析からはもともと抜歯すべきケースであった可能性は高く、そうであれば抜歯治療に変更するのに躊躇するのは得策ではありません。 まずは、担当医に今の状況を(否定面も含めて)解説してもらい、ういろうさんの望ましい成果を手に入れるためには、抜歯と非抜歯のどちらがよいのかをもう一度確認すべく話しを聞き、納得の上で今後の治療に臨むのが後悔しない道かと思います。
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