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メインテナンスが子供たちの歯肉炎とむし歯に及ぼす影響

OPひるま歯科 矯正歯科 院長 晝間 康明

今回は、子供たちのメインテナンスに関する2つの研究結果を解説します。

The Effect of a Plaque Control Program on Gingivitis and Dental Caries in Schoolchildren
プラークコントロールプログラムが学童の歯肉炎とう蝕に及ぼす影響

P. AXELSSON and J. LINDHE(Journal of dental research 1977 Volume 56)

研究方法

症例対象研究(ケースコントロールスタディ)(※1)
前向きコホート研究(※2)
プラークコントロールプログラム(※3)

※1:テスト群(メインテナンスを行なった群)とコントロール群(メインテナンスを行わなかった群)を設定し比較する研究。科学的根拠のレベルは観察研究に比較して高くなる。

※2:被検者をある時点より未来に向かって追跡するためデータの偏りが生じにくく科学的根拠のレベルが高くなる。しかし、研究途中に被験者が脱落する可能性があり、脱落を防ぐための管理や費用負担が大きくなる。

※3:プラークとは歯に付着した細菌の塊であり、むし歯と歯周病の原因。このプラークを減らしたり除去する方法をプラークコントロールと呼び、プラークコントロールには、①患者自身のホームケアで歯ブラシで行うもの、②プロフェッショナルケアで歯科衛生士や歯科医師による機械で行うもの(PMTC:Professional Mechanical Tooth Cleaning)、③抗菌剤でのうがいなどで化学的に除去するものがある。また、プラークを除去するだけでなくフッ素による歯質の再石灰化を含めて歯のメインテナンスとして行うことをプラークコントロールプログラムと呼んでいる。

研究対象と期間

1971年から1974年までの4年間にスウェーデンのカールスタッドに住む7歳から14歳までの子供たち216名。7〜8歳をグループ1、10〜11歳をグループ2、13〜14歳をグループ3とした。検査期間中に45名が転居により研究対象から除外された。

検査方法

実験を開始する前にすべての子供達に歯肉炎、う蝕の検査を行った。

[コントロール群]

歯科看護師によるブラッシング指導と0.2%のフッ化物洗口を月に1度受け、年に1回の歯科治療を受けた。

[テスト群]

最初の2年間、2週間に一度のPMTC、口腔衛生指導、フッ素塗布を受けた。3年目は、グループ1、2の子供たちは月に1度、グループ3の子供たちは2ヵ月に1度の頻度でPMTCを受けた。4年目はすべての子供達が2ヵ月に1度のPMTCを受けた。

すべての子供達は1年に1度メインテナンスから10〜14日後、アクセルソン先生によりプラークインデックス(歯の磨き残し指数)、ジンジバルインデックス(歯肉炎指数)、X線写真と視診によるむし歯の再検査を受けた。

結果

●プラークインデックススコア0

(歯の磨き残しが少ない)
テスト群=約70% コントロール群=約30%

●ジンジバルインデックスのスコア0

(歯肉炎のない健康な状態)
テスト群=約80% コントロール群=約40%

●むし歯の発生歯面の増加数(平均)

テスト群=1.78歯面 コントロール群=26.3歯面

これらの結果から、全年代でPMTCを含めたメインテナンスを2週から2ヵ月に1度受けることで、歯の磨き残しと歯肉炎が減少し、むし歯の発生数も抑制する可能性が示唆された。

The effect of various plaque control measures on gingivitis and caries in schoolchildren
各種プラークコントロールプログラムが学童の歯肉炎・う蝕に及ぼす影響

P. AXELSSON and J. LINDHE(Dent. Oral Epidemiol. 1976: 4: 232-239)

研究方法

症例対象研究 
前向きコホート研究 
クロスオーバー法(※4)

※4:同一被験者に対して前段階と後段階で異なる試験を行なう方法。同一被験者に対して異なる試験を行うことで試験法の違いによる効果を評価することが可能となる。一方で後段階の試験結果に前段階の試験結果の影響が残る可能性がある。

研究対象と期間

13~14歳の164名の小児を4群に分け、2年間の試験に参加させた。全ての参加者に口腔衛生指導を行なったあと試験を行った。

[1年目]

●グループ1
2週間に1度:0.5%のクロルヘキシジン(消毒薬)による化学的プラークコントロール+フッ素塗布
●グループ2
2週間に1度:0.5%のクロルヘキシジンによる化学的プラークコントロール
●グループ3
2週間に1度:PMTC+フッ素塗布
●グループ4
2週間に1度:PMTC

[2年目]

1年目のグループ1、2とグループ3、4のPMTCを入れ替えて試験を行った。
※1年目の科学的プラークコントロールではむし歯が大変増加したため、2年目は口腔衛生指導に変更した。

●グループ1
2週間に1度:PMTC+フッ素塗布
●グループ2
2週間に1度:PMTC
●グループ3
2週間に1度:口腔衛生指導+フッ素塗布
●グループ4
2週間に1度:口腔衛生指導

結果

1年目では、グループ1、2(PMTCなし)に対して3、4(PMTCあり)がむし歯の発生を抑制し、2年目では、グループ3、4(PMTCなし)に対して1、2(PMTCあり)がむし歯の発生を抑制した。

同様に歯肉炎でも1年目ではグループ1、2に対して3、4が歯肉炎の発生を抑制し、2年目ではグループ3、4に対して1、2が歯肉炎の発生を抑制した。

これらの結果からPMTCを2週間に1度繰り返すことで、歯肉炎の発生頻度を大幅に減少させ、むし歯の発生を予防することが可能であることが示された。

フッ素塗布を用いたPMTCでは、むし歯発生を抑制する追加的な効果はなかった。PMTCの代わりに0.5%クロルヘキシジンを使用しても、歯肉炎の発生とむし歯の発生を抑制することはできなかった。

むし歯歯面はグループ1、2では1年目に増加し、グループ3、4では2年目に増加した。2年目はグループ3、4を口腔指導に変更したため、グループ1、2との差は小さくなった。

このデータから当院の捉え方

アクセルソン先生らの研究によりメインテナンスにブラッシング指導とフッ素塗布だけでなくPMTCを加えることにより、子供たちの歯肉炎とむし歯の発生を防ぐ可能性が指摘されました。当院でも子供たちのメインテナンスでPMTCを行うことで歯肉炎とむし歯の発生や進行が抑えられています。

また、今回紹介したのは今から40年前の研究であり、むし歯が大量に発生していた時代です。現在では子供たちのむし歯の発生が当時の1/10にまで減ってきているので同じような頻度でPMTCを行う必要はないと考えられます。また、子供たちのむし歯の発生は減っても、歯肉炎の子供は多く、成人に近づくにつれてむし歯が増える傾向があり、むし歯と歯周病で歯を失う人が後を断ちません。これは、子供の時にメインテナンスの習慣を定着させ成人になってからの継続に繋げられないことが原因と考えられます。今後は、子供たちの歯を最小限のメインテナンスで守りながら、成人のメインテナンスの習慣化に結びつけることが生涯にわたって歯を守る上で重要になると考えています。