テーマ:大人が知っておくべき子供の歯の守り方
講師:鈴木香会さん(歯科衛生士)
「好きなお味噌汁の具はなんですか?」から今回のセミナーは始まりました。セミナーが行われた5月30日はお味噌汁の日とのことで、参加者全員が自己紹介とともに好きなお味噌汁の具を発表したのです。ちなみに私の好きな具は、茄子と青じそ。他の方々はエノキ茸、油揚げ、ワカメ、なめこなどでした♪
共感しあい、笑いに包まれたところでセミナーが始まるかと思いきや、次は衛生士の野中さんの絵本読み聞かせでした。タイトルは『うまれてきてくれてありがとう』。今回の参加者は出産を控えた妊婦さんと子どものいる母たち。皆さん自身の経験を思い出したのか号泣…!
「私たちがお子さんの治療にあたるとき、できるだけ楽しい雰囲気での診療を心がけていますが、歯みがきを嫌がる子もたくさんいます。お母さんには日頃からいっぱい話してスキンシップをたくさん取ると、いろいろな人に心を開くようになりますよと話しています。お腹のなかにいるときからたくさん話しかけると、生まれてからもコミュニケーションが取りやすいようです。ぜひやってみてください」と野中さん。親と子のつながりを改めて考えさせてくれた、いい読み聞かせでした。
そして、いよいよセミナー開始です。テーマは、小さなお子さんを育てているお父さんお母さんがお子さんのためにできること、知ってほしいこと。
子どものお口の健康、親の役割とは
現在、小学生以下のお子さんたちがおじいちゃんおばあちゃんの年代になったころ、平均寿命は100歳ぐらいになると言われています。100年間、健康で過ごすこと、そのために健康なお口でいることを考えて、丈夫な土台づくりをサポートすることを親世代は考えていかなければなりません。
乳歯は6ヵ月ごろから生え始めて、2歳半から3歳ごろに生えそろいます。そこから約10年間、生え替わりの時期を経て永久歯列が完成します。その間に健康なお口についての知識や習慣を教え、自分で守ることができるように育てていくのが、お父さんお母さんの役割なのです。
お口が不健康になる理由は?
原因は、主にむし歯と歯周病。歯周病は大人の病気と思われる方も多いのですが、子どもも罹る病気です。今回のセミナーでは、むし歯についてお話しします。
むし歯には罹りやすい時期があります。歯が生えてから20歳ごろまでと、50歳以降の時期の2回です。そのなかで親の関わりの大きい20歳までの時期は、いろいろな食べ物を食べるようになり、生活も刻々と変化していきます。また、20歳までのむし歯経験は、将来のお口の健康に左右するというデータもあります。お子さんの将来のためにできるだけケアをしてあげてください。
むし歯はうつる?
むし歯の状態には2段階あり、ひとつめは、菌がうつる段階の「感染症」、ふたつめは、菌がうつったあとの段階「生活習慣病」。
感染症とは、細菌やウィルスが体内に侵入して発症します。しかし、感染しても発病する人もいれば発病しない人もいるのです。発病すれば対応できるのですが、発病しなかったら感染に気づかないので、知らない間に2次感染を起こす可能性があります。
むし歯もこのように知らない間に親から子へ感染する場合があります。まずはお父さんお母さんがご自身のお口の状態を知ることが、お子さんのお口の健康を守る第一歩なのです。
むし歯を知ろう
むし歯の原因菌はミュータンス菌とラクトバチラス菌の2つです。ミュータンス菌は、口移しでうつり、歯に付着して砂糖とくっつくとねばねばした物質を出し、歯からはがしにくくなるのが特徴です。歯に穴を開けるきっかけをつくる菌です。ラクトバチラス菌は、環境によって増減し、ミュータンス菌が開けた穴を広げます。自分のお口の中にある菌の量は、唾液検査で知ることができます。
感染を防ぐには?
菌がたくさんあるお口の中を山火事に例えます。木が歯、火が虫歯菌です。火の勢いが強いほど、山火事は広がっていきます。火を消すためにはどうすればいいでしょうか。火を消すことをせず燃えた木をなおす(痛くなった歯をなおす)だけの従来の歯科治療では根本的な解決はなされません。火の強さと勢いを知って、計画を立てて消していくことが大切です。一緒に火を消すパートナーとして歯科医院を使ってほしいと思います。
また、父母の口の中の山火事の勢いがとても強いと、唾液を介して子どもにも燃え移ってしまいます。お箸やスプーンなどは自分のものを使いましょう。砂糖は山火事でいうところの油です。火の勢いを増す働きをします。まずは親子共に今のリスクを知り、何に気をつけたらよいのか知ることから始めていきましょう。
メインテナンスしよう!
親子の菌の量と感染に関するデータがあります。スコア2の母親が感染している子どもの率は14.3%、スコア3になると58.0%と感染率が跳ね上がります。さらにスコア3の母を対象に、その後しっかり管理したグループと、管理しなかったグループに分けると感染率に大きな差がでました。3歳時のむし歯の罹患率がおよそ半分以下に抑えられることがわかります。
1)お口の清潔を保つ 2)食器の共有を避ける 3)親子共に砂糖を摂り過ぎないこの3つがポイントです。家族みんなでメインテナンスを受けること、感染したあともメインテナンスを続けることでむし歯にさせないことも重要です。永久歯が生える前にお口の状況を把握して、歯科受診にも慣れさせ将来に備えることをおすすめします。
歯科衛生士 鈴木さんより
私は20歳以下の小児の診療を担当しています。小さなお子さんはお父さんやお母さんと来院されるのですが、診療室の中だけでは話しきれないことがたくさんあって、今回のテーマでのセミナーを企画しました。皆さんお子さんのお口を健康に保ちたいという思いは一緒です。でも不健康になってしまう原因は何か、どういうことに気をつけたら健康になるのか、ということについては、よくわからないという方が多いのです。お父さんお母さんにできることはたくさんあります。それらを正しく理解して、お子さんのお口が健康になるお手伝いをこれからもしていきたいと思います。
ひるまだより編集部より
今回のセミナーでは、私自身も息子を持つ母として考えさせられるところがたくさんありました。大切な子どもたちのお口を不健康にするのが、一番それを望んでいない親からだったということになれば、悔やんでしまいますね。でも例え感染してしまったとしてもその後のケアでよい状態になることも可能とういことがわかり、安心しました。親にはまだまだできることがあるのですね。自分のまわりにも小さな子どもを持つ親たちはたくさんいます。ぜひセミナーに参加してほしいなと思いました。