治療開始まで その1
診断が終わり、患者さんが治療法を説明し納得して頂ければいよいよ治療開始です。しかし、すぐに装置を付けるわけにはいきません。
矯正治療は長期に渡る治療です。したがって準備もしっかりする必要があります。
装置を付けるまでの流れ
装置を付けるまでは以下のような流れになります。
1.ブラッシング
ブラッシングからバンドセットまでの治療過程
今回はブラッシングからバンドセットまでの治療過程を説明したいと思います。
ブラッシング
このドキュメンタリー主人公(矯正治療患者)は当医院の歯科衛生士で、むし歯歯周病予防のプロフェッショナルです。歯の磨き方を皆さんに指導する立場ですから、とうぜん自分の歯もきれいに磨けなければなりません。矯正装置を付ける前に、ブラッシング(歯ミガキ)の腕前をチェックしました。チェックは昼食後、20分かけ、普通の歯ブラシ、歯間用歯ブラシ(タフト)を用いた念入りな歯ミガキ後におこないました。
チェックはプラーク(歯垢、古いみがき残しや細菌の塊)染め出し液により、プラークを赤く染め出し、チェックします。
結果は・・・
みがき残しのある部位は全体に対して8%だけでした。一般の方では20%以下で優秀ですから、かなり良い結果です。プロとしての腕前を見せてもらいました。しかしプロでも、歯と歯が接する部位などはみがき残してしまうことが改めてよく分かります。
普通の歯ミガキでは落とせなかったプラークを、本人に認識してもらい、機械を用いて落とします(PMTC)。そして、きれいになった歯に、エナメル質を再石灰化させ歯を強くするためのフッ素を塗り、矯正治療開始に備えます。
セパレーション
歯ミガキも上手、むし歯や歯周病の治療も必要ない健康的な状態になりました。いよいよ矯正治療を開始することができます。
まず始めに、セパレーションをおこないます。
セパレーションゴム
セパレーションは上下左右第1大臼歯の前後にセパレーションゴム(小さい輪ゴムのようなものなど)をはめることでおこないます。この輪ゴムを入れたばかりの頃は窮屈で痛く、固いものを食べたりするのがつらくなります。この痛みは2~3日で治まり、1週間ほどすると歯と歯の間にすき間ができゴムが緩くなってきます。これはセパレーションゴムにより第1大臼歯と前後の歯が移動し、すき間ができたためです。このすき間を利用し、バンド(金属のリングにワイヤーを通すチューブが付いたもの)を装着します。
ひるま矯正歯科では、セパレーションを矯正治療に堪えられるかどうかのテストとも考えています。
矯正治療は痛みを伴います。本格的な矯正治療を始めた後に、この痛みに耐えられないから治療を中止するとなっては、きちんと噛めなくなったり、すき間ができたりと様々な障害が起きてしまいます。このようなことにならないよう、セパレーションを本格的な治療を開始する前のテストとしているのです。
ではなぜ歯を動かすと痛みが出るのでしょうか?
歯は弱い持続的な力を加えることで、顎の骨に改造現象(骨の吸収や形成を繰り返す現象)が起き、歯の位置変化が起きます。これは筋肉を鍛える際、負荷を加えるトレーニングにより筋繊維が断裂し、治る過程で筋繊維が太くなって行く過程にも似ています。したがって、筋肉を鍛えた後に筋肉痛が出るように、歯の移動にも痛みが伴います。セパレーションをすると、入れた当日の夜や、翌日は固いものが食べられなくなったりします。これも歯の移動による、痛みが原因です。このセパレーションに耐えられれば、矯正治療にも堪えられます。では、いよいよ装置を装着し矯正治療開始です。
バンドセット
セパレーションによってできた歯と歯のすき間を利用して、上下左右の第1大臼歯にバンドをセットします。
大臼歯以外の歯にはボンディングといって、歯の表面に直接ブラケットを接着します(次回のドキュメンタリー矯正治療で解説)。
バンドを装着する歯面を専用機械と研磨材で清掃します。ここで歯面の清掃が不十分だと、バンドの中で細菌が繁殖し、むし歯を作ってしまうことがあります。
また、歯と歯肉の境目にも抗菌剤を注入し歯肉炎になることを予防します。
歯と歯肉の境目が除菌され清潔になった所で、実際にバンドを装着して行きます。バンドは歯科用のセメントで装着しますが、このセメントにひるま矯正歯科ではフッ素徐放性のもの(*)を用いています。
(*フッ素徐放性とは、セメントから長期的に少量のフッ素イオンが放出されることでむし歯になりにくく歯を強くすることができるセメントです。)
バンドを装着した所
また、矯正装置を装着してなれるまでの間は頬の粘膜に装置が引っかかってしまうことがあります。そこで、装置をカバーするガードワックスを使って頂くことがあります。
永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安
- 治療内容
- オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
- 治療に用る主な装置
- マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
- 費用(自費診療)
- 約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額 - 通院回数/治療期間
- 毎月1回/24か月~30か月+保定
- 副作用・リスク
- 矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。