矯正治療の最終仕上げであるアイデアルアーチ
今回のドキュメンタリー矯正治療では、矯正治療の最終仕上げであるアイデアルアーチについてご説明します。
アイデアルアーチに始まりアイデアルアーチに終わる
私が矯正歯科医局に入局して半年過ぎた頃、模型を使った矯正治療の実習が始まりました。その最初の実習はアイデアルアーチの屈曲練習です。
そして、矯正専門医となって10年経った今でも最も神経を使うのがこのアイデアルアーチです。それは、このアイデアルアーチを曲げればどんな患者さんでも絶対大丈夫というものがなく、全てのアイデアルアーチは患者さんによって異なるからと言えるでしょう。
アイデアルアーチを曲げる時は、患者さんのお口の中を観察し、適当と思われるベンド(曲げ)を入れたアイデアルアーチを入れて歯の動きを観察していきます。そして次回の診察でアイデアルアーチに対する歯や噛み合せの反応を見て、さらに微調整を加えることを繰り返しています。
すなわち患者さんの顎骨や歯という生体とアイデアルアーチを通じて会話をしながら理想的な咬合状態に仕上げているのです。
私にとって矯正歯科の技術とは、アイデアルアーチに始まりアイデアルアーチに終わると言っても過言ではないかもしれません。
アイデアルアーチとは?
私たち矯正専門医や矯正治療を始めた患者さんの最終的な目的は、矯正装置を外した直後の一時的に綺麗な歯並びではなく、装置を外しても長期に渡り安定する綺麗な歯並びです。
では、長期に渡り安定する歯並びを作るにはどうすれば良いのでしょうか?
過去の様々な研究により、矯正治療の最終的な仕上がり(歯列弓形態、咬合状態、口元と歯のバランスなど)が長期的な安定に大きな影響を及ぼすことがわかってきています。この矯正治療の仕上がりを高めるためには、矯正治療開始前の適切な診断と毎回の適切な判断に基づくワイヤーの調整や患者さんに与える指示が最も大きな影響を与えます。しかし、最終的な仕上げが不十分であれば、どんなに適切な治療経過であっても充分な仕上がりを得ることはできません。この仕上がりに影響を与える最終的な治療ステップがアイデアルアーチです。
アイデアルアーチとは、ideal archと表し直訳すると「理想的なアーチ(歯列弓)」を意味します。
歯列には、噛む力、舌の力、唇の力、頬の力といった大きな力が様々な方向から常に加わります。この様な様々な力に対して、安定する理想的な形態がアーチ型の歯列であり、私たちの求めるアイデアルアーチなのです。
そして、上下の歯列弓がアイデアルアーチ(理想的な歯列弓)となり緊密に咬合する状態が最も安定する矯正治療の仕上がりです。
矯正治療の理想的な仕上がりとは?
エッジワイズ法の発展に大きく貢献した、矯正歯科医Dr.Tweedによれば、理想的な矯正治療の仕上がりとは、
1.顔貌線の最良の平衡と調和
2.治療後における歯列弓の安定
3.健康な口腔組織
4.効果的な咀嚼機能
であると述べています。
このなかでも、「2.治療後における歯列弓の安定」と「4.効果的な咀嚼機能を達成するため」には、最終的な歯列弓のアーチ形態、上下歯列のアーチの調和、歯1本1本のトルクやアンギュレーションが最も大きな影響を与えます。
これらの調整を最終的におこなう重要な治療ステップがアイデアルアーチです。
アイデアルアーチが目標とする最終的な歯列や咬合状態について御説明します。
正面から見た理想的な仕上がり
上顎の歯で作られた咬合平面、下顎の歯で作られた咬合平面が連続しており、左右の非対称性がない状態
上顎の咬頭が下顎の咬頭の外側に位置する状態で緊密に接触している状態
正面から見た理想的な仕上がり
上顎咬合平面に歪みがない |
上顎の歯が |
|
下顎咬合平面に歪みがない |
上下歯列の正中線が一致し、 |
正面(やや下方)から見た理想的な仕上がり
上下の歯が緊密に |
上顎の歯が |
側面から見た理想的な仕上がり
上顎の咬頭が下顎の咬頭と咬頭の間に噛みこむ、歯車が噛み合うような咬合状態
右側面頬側(外側)から見た理想的な仕上がり
上顎の咬頭(↓)が下顎の咬頭(↑)と |
右側面舌側(内側)から見た理想的な仕上がり
上顎の咬頭(↓)が下顎の咬頭(↑)と |
噛む面から見た上下歯列の理想的な仕上がり
上下歯列を噛む面から見た時,左右対称で連続性のあるアーチ型を成している。その際、ものを食べる時に重要な働きをする歯の咬頭頂(咬頭の尖端)と中心溝(咬合面中心部の溝)が連続しバランス良く並んでいる。
上顎歯列を噛む面から見た所
咬頭の尖端にある |
歯の咬合面中心に |
下顎歯列を噛む面から見た所
咬頭の尖端にある |
歯の咬合面中心に |
画像提供 新潟大学 矯正歯科 八巻正樹先生
永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安
- 治療内容
- オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
- 治療に用る主な装置
- マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
- 費用(自費診療)
- 約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額 - 通院回数/治療期間
- 毎月1回/24か月~30か月+保定
- 副作用・リスク
- 矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。