治療開始まで その2
今回のドキュメンタリー矯正治療は、前回に引き続き治療開始までの流れを説明します。前回は歯を動かすまでの準備について説明しましたが、今回は全部の歯に装置を装着し歯を動かしはじめる
4.ボンディング → 5.ワイヤーベンディング → 6.タイイング → 7.ワイヤーセット までの流れを説明します。
装置を付けるまでの流れ
前回までに説明した装置を付けるまでの流れ
1.ブラッシング
2.セパレーション
3.バンドセット
今回説明する装置を付けるまでの流れ
4. ボンディング
ボンディングからワイヤーセットまでの治療過程
ボンディング
矯正治療ではワイヤーの弾性(しなり、たわみ)を用いて歯を動かすための力を歯に加えて行きます。このワイヤーの力を正確かつ効率良く歯に伝えて行く装置がブラケットと呼ばれる四角い装置です。このブラケットを歯面に接着することをボンディングと呼びます。
ブラケットは、一般的な矯正治療期間である1年から3年の間は歯面から外れないでいてほしいものの、矯正治療後には歯面を傷つけることなく外れてほしい相反する二つの機能を備えていなくてはなりません。このような機能を備えた接着剤により、ブラケットを歯面にボンディングしています。
*ひるま矯正歯科では前歯には歯の色に近いブラケット(クリアタイプ)、犬歯から小臼歯部では薄くて強度のあるメタルブラケットを用いています。
クリアタイプブラケット
前歯など目立つ部分に用いるクリアタイプブラケット
(材質:強化プラスチック、セラミックなど)
1.接着面の清掃
歯の表面には目に見えない細菌や食べかすなどの異物が強固に付着しています。この様な付着物が歯面に残っているとブラケットがしっかりと接着せず、治療中に装置が外れてしまうなどのトラブルになってしまいます。トラブルを防止し、歯を効率良く移動するためにも専用の機械により歯の表面を清掃し、異物を排除します。
2.歯面の脱灰
歯面を清掃した後、歯の表面に脱灰液(オレンジ色のお薬)を塗布し、歯の最表面の無機質を一層溶かします(脱灰後の歯面が白濁しているのが分かりますか?)。この脱灰により、つるつるだった歯の表面を曇りガラスのようにざらざらにさせ、ミクロのデコボコを作ることで強力な接着力を得るようにします。
3.ブラケットのボンディング
歯の表面を清掃し、脱灰をおこなえば、いよいよブラケットのボンディングです。ブラケットは、矯正治療後終了した時(理想的なかみ合わせができ上がった時)にブラケットスロットが一直線に並ぶことを予想し装着します。ブラケットを歯のどこにつけるかをポジショニングと呼びますが、このポジショニングの良否、技術が今後の治療に大きな影響を与えます。ポジショニングは多くの経験、治療後にどんな歯並びになるのかといった予測、操作時間が約15秒という短い時間で正確な位置に装着する集中力、治療を介助してもらうスタッフとのコンビネーションが必要となります。
ピンセットでブラケットを歯面に運びボンディングします。
ボンディング時にブラケット周囲にはみ出た接着剤を除去します。
ブラケットがボンディングされた状態の口腔内です。
ワイヤーベンディング
ブラケットを装着しても、歯を動かす力はまだ働いていません。実際に歯を動かす力を持っているのはアーチワイヤー(針金)です。ここで、個人の歯や顎の形態、咬合状態、歯に加える力の大きさやその反作用を予測してワイヤーをアーチ型に曲げて行きます。ワイヤー(針金)を曲げそれぞれの顎の形態に合わせたアーチ型にすることをワイヤーベンディングと呼びます。このワイヤーベンディングを正確にかつ素早くおこなうためには膨大な時間と訓練が必要です。ワイヤーベンディングの技術の高さは、高い矯正治療技術力の一部を表しているとも言えます。
ワイヤーは毎回の調整時に、治療のステップにあわせてワイヤーの形を変えたり、ワイヤーの太さを変えたりし細かな調整を加えながら治療を進めて行きます。これは実際にワイヤーを曲げている所です。
この様にワイヤーを歯や顎の形態、治療のステップに合わせて曲げて行くことをワイヤーベンディングといいます。既製のワイヤーを用いずに個々の症例に合わせてワイヤーを曲げることで細かい調整が可能となります。もし顎の幅より広いワイヤーを入れてしまえば歯は顎骨の外側に飛び出たりしまうので、個々の顎の大きさにあわせたワイヤーベンディングが必要となります。
ストレートワイヤーテクニックとスタンダードエッジワイズテクニックの違い
多くの歯科・矯正歯科医院で矯正治療に用いられているテクニックは、ストレートワイヤーテクニックというものです。しかし、ひるま矯正歯科では質の高い治療にこだわった結果、スタンダードエッジワイズテクニックを用いています。
二つのテクニックの大きな違いの1つに、今回紹介したワイヤーベンディングが挙げられます。ストレートワイヤーテクニックではワイヤーベンディングをおこなわず、既製のワイヤー(すでに平均的な歯や顎の形態に曲げられ製品化されたストレートのワイヤー)を用いて治療を進めて行きます。一方でスタンダードエッジワイズテクニックは個人の歯・顎の形態、治療のステップにあわせて術者(矯正歯科医)がワイヤーを曲げて治療を進めます。いわば、カスタムオーダーメイドの矯正治療です。そのため、術者の個々の症例に対する細かな配慮をワイヤーに組み込むことが出来ますが、経験がない術者がおこなえば技術力の低さが歯のかみ合わせに直接悪影響を与えてしまうことがあります。結果、治療が思わしくない方向に進んだり、期間が長くなったりしまいます。
極端な言い方をすれば、ストレートワイヤーテクニックは、術者が例え初心者でも熟練者でも治療結果に大きな差が出ないものの細かいコントロールはおこないにくいテクニックであるといえます。一方、スタンダードエッジワイズテクニックは高い治療技術と経験を持つものがおこないさえすれば、より高い治療結果を出すことの出来るテクニックといえるでしょう。
診療をおこなう側にとって、スタンダードエッジワイズテクニックは身に付けるのに多くの時間、経験などの労力も多く大変です。しかし、本当にきちんとした矯正治療をおこなうためにはどうしても必要な技術だと考え、ひるま矯正歯科ではスタンダードエッジワイズテクニックにこだわっています。
*詳しくはスタンダードエッジワイズテクニックの解説をご覧ください。
タイイング→ワイヤーセット
個々の症例に合わせたワイヤーをブラケットに装着して、はじめて歯を動かす矯正力を発生させることが出来ます。このワイヤーをブラケットに装着することをワイヤーセットと呼びます。ワイヤーセットには接着剤などは用いません。接着剤などで固定してしまうと毎月の調整ができなくなったりするためです。では、どの様にしてワイヤーをブラケットに装着するのでしょうか?
ブラケットには“スロット”と“ウイング”があります。このスロットにワイヤーを通すのですが、ただ通しただけではすぐに外れてしまいます。そこでスロットに通されたワイヤーが、外れたりしないようにするためにウイングを使って結びつけることを“タイイング”と言います。
ブラケット各部の名称
これはアーチワイヤーをスロットに通しただけの状態です。
一本一本の歯(ブラケット)にタイイング用のワイヤー(タイワイヤー)でアーチワイヤーを結びつけている所です。タイイングには専用のプライヤー(タイイングプライヤー)を用います。タイイングプライヤーを回転させることによりタイワイヤーを捻じりスロットにワイヤーをしっかり結びつけます。
タイイングが終わり、余ったタイワイヤーが垂れ下がっています。
余ったタイワイヤーを切り、チクチクしないように結び目をアーチワイヤーの裏側に折り込めば一本のタイイングは終了です。
タイイングの様子を外から見た所です。
全ての歯のタイイングが終わった所。これでワイヤーセットが完了します。
タイイング前に比べてタイイング後(ワイヤーセット後)のワイヤーがくねくね曲がっています。この曲がった状態が、次回の調整時までに少しづつまっすぐになることで歯がきれいに並んできます。
装置を装着した後のスマイルです。従来の装置に比べて大分目立たなくなっているのがおわかり頂けるかと思います。
永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安
- 治療内容
- オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
- 治療に用る主な装置
- マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
- 費用(自費診療)
- 約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額 - 通院回数/治療期間
- 毎月1回/24か月~30か月+保定
- 副作用・リスク
- 矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。