アンテリアリトラクション時のトルクコントロール
アンテリアリトラクション(前歯の後退)をおこなう際にトルクコントロールが大切であることを前回のドキュメンタリー矯正治療で御説明しました。
トルクコントロールは、矯正治療をおこなう全ての症例において重要です。
また、ドキュメンタリー矯正治療ではアンテリアリトラクション時の前歯部トルクコントロールについて説明していますが、本来は前歯だけでなく側方歯(小臼歯、大臼歯)のトルクコントロールも、よく噛める噛み合せを作るためには非常に重要です。
しかし、全てのトルクコントロールについて実際の症例を提示しながら説明するにはホームページだけではスペースがたりません。そこで、今回はドキュメンタリー矯正治療の症例解説はお休みし、トルクコントロールが分かりやすい上顎前突症例のアンテリアリトラクション時のトルクコントロールについて、実際の症例を提示しながら説明します。
上顎前突症例のトルクコントロール
上顎前突とは、上顎の歯列が下顎歯列に対して前方に位置した前後的なズレのある咬合状態(噛み合せ)です。
この様な咬合状態を改善するためには、上顎歯列全体を後方に移動するか、下顎歯列全体を前方に移動するか、もしくはその両者をおこないます。
しかし、実際の臨床における上顎前突症の治療では、上下の歯列がそれぞれ綺麗な放物線状に並んでいて前後にズレいている訳ではなく、それぞれの歯列がデコボコ(叢生)で前後にズレています。
したがって、抜歯によりスペースをつくることで叢生を改善し、かつ上顎前歯を後退させ、下顎前歯はあまり後退させないようにしなければなりません。
本症例でも、叢生があり上顎の前歯をできるだけ後退させることが重要です。
歯を動かす前の治療開始時の口腔内は以下の様な状態です。叢生が強く、上顎の歯列が下顎の歯列に対して前方に位置している(臼歯関係アングルII級)上顎前突症例です。
アングルのI級では、上顎の大臼歯(○)が下顎の大臼歯(○)に対して反咬頭遠心(奥側)に位置します。しかし、本症例では上顎の大臼歯が下顎の大臼歯に比べて近心(前方)に位置するアングルII級となっています。
下記の図は本症例の初診時(治療開始時)頭部X線規格写真です。
X線写真上の黄色いラインは、必要な外形線をなぞったものでトレースと呼びます。
次に下記の図をご覧下さい。黄色いラインは治療開始時、赤いラインは終了時の状態を示しています。上下顎の前歯がほぼ平行に後退しているのがお分かりになるかと思います。
もう少し詳しく見てみましょう。
下の図は上顎骨、下顎骨それぞれの基底面を基準に治療開始時と終了時の顎骨と歯の位置関係の変化を示したものです。
上顎骨
(黄色線:治療開始、赤線:治療終了時)
上顎前歯は治療前後で歯軸が平行に後退し(歯体移動)、根尖部(歯の根の先)も後退していることがわかります。
下顎骨
(黄色線:治療開始、赤線:治療終了時)
下顎前歯も同様に、歯軸が平行に移動(歯体移動)しています。
治療開始時
治療終了時
症例写真の補足情報
- 主訴
- 前歯のデコボコ
- 診断
- 中立咬合・叢生歯列
- 年齢
- 28歳8か月
- 抜歯部位
- 上下顎左右第1小臼歯
永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安
- 治療内容
- オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
- 治療に用る主な装置
- マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
- 費用(自費診療)
- 約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額 - 通院回数/治療期間
- 毎月1回/24か月~30か月+保定
- 副作用・リスク
- 矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。